誤って人を死なせてしまい、家族を思いながら逃亡生活を続ける父。
そんな父の帰りを待ちわびる9歳の息子と、
大黒柱のいない家庭を必死で守る母。
昭和晩年、佐賀県唐津市にある、
日本三大朝市の一つとしても有名な海辺の町・呼子を舞台にした
人情劇『春よこい』が12月26日にビクターエンタテインメントよりリリースされる。
昭和の面影が色濃く残り郷愁を誘う風景の中、
親子の強い絆と彼らを支える人々の優しさがじんわりと心に染み入る感動作だ。
悲しみを内に秘めながらも、気丈にふるまう母親を演じるのは、
17年ぶりの日本映画主演となる工藤夕貴。
国内外で活躍する、数少ない日本人女優と
今作でタッグを組んだ三枝健起監督にお話をうかがった。 |
| 編集部 |
実際にあった話を基に作られているそうですね。 |
| 三枝 |
昭和の終わりごろ、逃亡犯の父親を持つ子供が、
指名手配写真が貼り出される時期に
「父ちゃん今年もまた写真が出るね」と漏らした
という記事が新聞に掲載されたんです。
その話を基にストーリーをふくらませた脚本を、
さらに今回のロケ地に合わせるように書き換えていきました。
佐賀県の呼子町を選んだのは、ロケーションに最適な島があったし、
昭和の匂いをまだ残していて、
あまりCGを使わなくても済むような(笑)土地だったからです。 |
| 編集部 |
前作『オリヲン座からの招待状』に続き、
今回も昭和の時代を描いています。 |
| 三枝 |
僕が生まれ育った時代だし、
平成より好きだから、自然とそうなったんでしょうね。
やはり、自分の記憶がオリジナリティーにつながっていくものですし。
だけど以前テレビの仕事をやっていたころは、
幻想的なものを作るのが僕の持ち味だったんです。
最近撮る映画は、そういう作風は影を潜めて、
昭和が舞台の心温まるものになっている。
今までの僕のキャリアの中ではめずらしい作品に入りますよ。
家族で一緒に楽しんで見てもらえるのってこういう形なのかな、
と試行錯誤しながら作ったものなんです。 |
| 編集部 |
主演の工藤夕貴さんは、17年ぶりの日本映画主演です。
脚本を気に入って出演を快諾されたとか。 |
| 三枝 |
昔、まだ18歳のころの工藤さんに
インタビューでお会いしたことがあります。
かわいらしくてホワッとした印象でした。
今作で久しぶりにお会いして、
夢見るお嬢さんのような雰囲気は変わっていなかったけど、
今では自分でトラクターを運転して、エコロジーな生活を送っている、
たくましさも兼ね備えた方なんですよね。
ハリウッドなど海外で様々な経験を積んできたので難しいことを言う、
手ごわい人になっているかと思っていましたが、
そんなことはありませんでした。
ただ、ものすごく役柄に入り込むタイプで、
計算しないような場所に動いたりするときがあって(笑)、
ハラハラさせられることもありました。 |
| 編集部 |
久し振りに工藤さんと再会されて、
演技や精神面での成長を実感されたのでは? |
| 三枝 |
もちろんそう思いました。
海外に行っても順風満帆というわけではなかったでしょう。
ハリウッドに乗り込んで日本人というハンディキャップを持ちながら、
いろんなオーディションを受けたりする中で、
女優として強くなったんでしょうね。
外国では、一人で生きていく力をかなり養ったんじゃないでしょうか。
芯の強い方だと思いました。 |
| 編集部 |
そういう意味では、今回の気丈なヒロイン役にぴったりですね。
溜めていた感情を、途中で爆発させてしまいますが。 |
| 三枝 |
今はただ耐え忍ぶ女性を描いても、
見る方が納得いかないですよね。
でもこわれていく中で、
また新たに再生していく様をしっかりと作っていったつもりです。
そのシーンでは工藤さんが海辺で泣き叫ぶんですけど、
すぐそばには崖と荒波がある状態で。
彼女はケガもいとわないで、
真剣に演技に入りすぎてしまう人なんで、
そのまま飛び込んでしまうのではないかと心配でしょうがなかった(笑)。 |
| 編集部 |
新聞記者を西島秀俊さん、
漁師で逃亡犯の夫を時任三郎さんにキャスティングした理由は? |
| 三枝 |
西島さんに初めてお会いしたとき、
すごく自然体で清潔感が感じられて、いっぺんに好きになりました。
親子を助ける記者の役がぴったりだと。
時任さんは、自分が演じるキャラクターの行動に疑問を持って、
アイデアをたくさん出してきました。
ずいぶん相談しながらやっていきましたよ。
西島さんも時任さんも、
役者だけでなく作る側にも興味を持っていて、
監督業へのチャレンジも目指しているような印象を受けましたね。 |
| 編集部 |
この作品を通して、一番伝えたいことをお聞かせ下さい。 |
| 三枝 |
今、親が子供を殺してしまうような事件が
月に2、3件は起こっていますよね。
自分たちの子供のころは、このような事件は滅多になかったと思います。
親殺し、子殺しなんて、決してあってはならないこと。
僕の中で一番高い愛のレベルというのは、
母親が子供を思う気持ちです。
子供が親を愛するのは2番目、男女間は3番目。
劇中で一途に子供を愛する母親を通じて、
その最も深い愛を、
殺伐とした現代に生きる方々に感じとっていただければと思います。 |
文/古川祐子 写真/橋本中(asset) |